第四章 襲い来る堕天使の翅

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  「ぬおおおお!!」  夥しい量の雷が剣身から漏れて周囲に広がり、全身を伝わる電熱に因って肉体を赤黒く焼き焦がしながら、魔人は両腕を振るい魔導剣ごとキルケの身体を自身の後方に向かって放り投げる。 「どひゃああっ!?」  空中で目まぐるしく身体を回転させながら、キルケは煉瓦張りの地面の上に墜落し、背中を強く打ち付けて苦悶の表情を見せた。 自身の技術(クラフト)と、大量の魔力エネルギーを用いた必殺の一撃を耐え切られ、彼女は可能な限り素早く身体を起こし、再び魔導雷撃剣を脇に構えて相手の様子を確認する。 「全く……大した魔力エネルギーだ。御前も只の人間では無いな」  全身に火傷を負い呼吸を整えながら、一つ眼の魔人は感心した様に、キルケの顔を覗き見た。 あれだけの攻撃を受けていながら、まだ立っていられるのか。 敵の忍耐力に少しの恐れを抱き、キルケは相手の挙動へ警戒の目を向けつつ言葉に応じる。 「御生憎様。私にも魔人の血が流れているのよね」 「……その割には、随分とその血が薄い様に見受けられるな」 「それもクォーターだからね。確かに純正のディアボロス(悪魔)であるあんたには、魔力の面で敵わないかもしれない」  相手と問答を続けながらキルケは深く腰を下ろし、魔導剣の剣身を上に掲げて攻撃体勢に入った。 相手との間合いは遠く、四メートル程の開きがある。 先の攻撃が駄目なら、今度は残っている有っ丈(ありったけ)の魔力エネルギーをラスタバン・ブロンデーに乗せて、全身全霊……最大にして最後の一撃を放つしかない。 「……だけど、パテラス(お父さん)やヤヤ(お祖母ちゃん)から受け継いだマギア(魔法)の力がある限り、私は絶対に勝ち残る……!」  胸を張り力強く宣言を行って、キルケは精神を集中させて自身の技術を最大活用する為に≪詠唱≫を唱え、魔導雷撃剣の剣身に全ての魔力エネルギーを充電させる。 「ほう。面白い事を言うな。やってみせろ。次の一撃で倒せないのであれば、私は御前の肉体を打ち砕くぞ」  これから相手が繰り出す攻撃を心待ちにでもする様に、一つ眼の魔人も腕を組み仁王立ちとなって、彼女の攻撃を待ち続けた。 暫くして魔力エネルギーの充電も終わり、キルケは白い稲妻を放つ剣身を一瞥し、再び相対する魔人の顔を睨み付け、グリップに付いた引き金に指を掛ける。 「──魔導雷霆剣(まどうらいていけん)。ラスタバン・ケラヴノス……!!」  
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