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「ン、アキラ、どうした?」
井上翔太は振返って俺の視線の先を見た。
「あ、アキラの親父さんじゃん」
塗装が日に焼け、色が変わってしまっているマーチから、冴えない恰好の親父が降りてこっちに歩いて来る
何しに来た……
髪はボサボサで、黒いポロシャツに綿パンしかもサンダル……なんだか寝起きでこれから朝の散歩に出かける様な恰好だ。
……来ないでくれぇ
「よぉ、なんだかすごいギャラリ―じゃないか」
「こんちわ、おじさん」
井上翔太が親父に挨拶して、親父をみんなに紹介する
いらん事すな……
「おい、みんなアキラのお父さん」
「あ、こんちわ」
みんな口々に親父に挨拶している。
「何しに来たんだよぉ!」
俺は小声で親父に囁く
「どうしても懐かしくなってな、直ぐ帰るから、いゃー昔も今もバイク小僧君達は元気に走ってるなー」
親父は俺に背を向けて道路の方を見ながら、独り言の様に言った。
俺は嫌な予感がした。
こんなふうに俺に背中を向けて親父が話す時は、必ず俺に何か頼みごとをしてくる時なのだ。
俺には親父が次に何を言い出すのか凡その見当はついていた。
「なぁ……アキラ」
「駄目!絶対駄目、何と言われてもい、や、だ」
「そのバイクは俺のだぞ……まだやるとは言ってないんだけどなぁ」
「クッ!何を今更」
背中を向けたまま、煙草の煙をふぅ―っと吐く親父
「……」
「……わかったよぅ、20分だけだぜぇ」
俺はメットを親父に渡した。
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