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「美月、待っててくれてるのか?」
震えそうになる声を必死に堪えながら、久しぶりにその名前を口にする。
でも今まで目の前に席に座っていた優弥の姿はなく、気づくと席を立ち帰ろうとしている。
「優弥!」
聞けていない答えを……
今一番知りたい答えを求め、俺は周りも気にせず優弥の名を叫ぶ。
「どうなんだろうな。気になるなら本人に直接聞けよ」
足を止め俺の方を少し向き直った優弥がくれたのは意味ありげな言葉だけ。
知っているのなら教えてくれればいいのにと思いながらも、優弥の言うとおりだと自分が一番良く分かっているだけに言えない。
「そんなに難しい事か?やっぱりお前はまだ子供だな。全然成長してないよ」
無意識に険しい顔になる俺を見て優弥は呆れたように笑う。
そんな事いちいち言われなくても自分が一番分かっている。
だから俺は今もまだ美月に会いに行けないでいる。
距離だってそんなに遠いわけでもない---会おうと思えば会いに行ける距離。
分かっているのに俺はずっと微妙な距離を保ち続けていた。
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