グラハート

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『ターナー世界紀行記』 第二巻〈グラハート編〉 より抜粋 グラハートの国民性を 一言で表現するなら、 恐らく、合理主義が 最も相応しいだろう。 彼らは富を築くために 努力を惜しまない。 獰猛なほど野心的で 本能と欲望に忠実。 そして、名誉を重んじ 紳士として扱われることに 誇りと強い自負を持つ。 読者の中には、欲望に 忠実であることと高潔な 紳士であることが両立する ことに疑問を感じる方も いるかも知れない。だが グラハート人の合理主義は それを可能にする。結局 彼らの至高の目的は 金儲けなのだ。商売には 信用が欠かせない。 また、ルールを守らない ならず者と取引をするのは 合理的なことではない。 だから、彼らは正義と 筋を通して、信頼される 紳士であることに 命さえ賭けるのだ。 ただ、注意しなければ ならないのは、彼らの 正義には、偏りがある ということだ。彼らは 弱い者から奪うことを 卑怯だと罵る。しかし 愚かな者から奪うことは 抜け目のなさとして 称賛する。そして、 よそ者の目にはこの弱者と 愚者の区別が、ほとんど 理解できないのだ。 彼らの合理主義は 一年の過ごし方にも 如実に反映されている。 グラハートの首都は グラティカだが、ここが 都として機能するのは 一年のたった三分の一、 冬の四ヶ月間だけだ。 〈つ〉の字型の大陸の ちょうど湾曲部に位置する グラハートは大気の 吹き溜まりで、夏は暑く 冬は寒い。だから季節に 合わせて最も過ごしやすい 場所を都にするのだ。 冬には海に近く、運河の 発達した国際貿易の要所、 グラティカで。夏には 涼しい高原の文化の要所、 フェラールで。春と秋には その中間で国内交通の 要所、ノーリーで。 当然、王も移動する。 季節に合わせグラティカの 冬宮、フェラールの夏宮、 ノーリーの中離宮という ように。ちなみに、 ノーリー・フェラール間の 移動途中でアルジャー公爵 の城に二週間程度滞在する のが慣例だそうだ。王も 休暇を取るというのが グラハートらしい。
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