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一八一〇年、江戸 吉原。
吉原でも常に番付に名が載る妓楼、駒鳥屋。
そろそろ昼見世が始まろうかと賑わいだした頃…。
「 緒とわ 」
自室で馴染み客からの文を読んでいた所。
ふいに名を呼ばれ顔を上げると姐さん女郎が立っていた。
「綾鳥姐さん、どうしんした」
「どうもせんが…ほれ、珍しい菓子じゃ」
そう言ってニッカと笑う、およそこの廓一の女郎とは思えない笑い顔。
茶を用意させ、二人で菓子を摘む。
綾鳥姐さんは見目良く、教養高く、気がきいて。
吉原細見の番付ではいつでも一二を争う、“呼び出し”と呼ばれる最高級のおいらん。連日連夜、お大尽方は大行列だ。
なのに全然気取らず、若い者達にも良くしてくれる。
私にだって本当の姉のように接してくれる、大好きな姐さん。
「松葉屋の息子様からだろ?」
姐さんがニヤリとしながら文を指す。
「全く、誓いを立てろと煩くって仕方ない…」
「ハハハ、女郎冥利に尽きるじゃないか」
「初な息子様はすぐにのぼせて困りんす…」
「そういや下で琴音が“指切り”だとよ」
姐さんが思い出したように言う。
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