1544人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言うと、ダイスはソフィーに刺繍が完成したスカーフを被せた。
「糸と糸を繋いでいると、絡まる事がある。そして、玉を結ぶ」
そして、ダイスはソフィーの御腹に触れる。
「其の花は君と、彼と、此の子への贈り物」
「この、子」
「布、売りなよ。少しは生活の足しになる。無理しちゃ駄目だよ“御母さん”」
ソフィーがスカーフを退けて顔を上げた時、ダイスは既に其の場には居なかった。
糸を通した針が、身体を突き抜ける。幾つも幾つも、身体を突き抜ける。
糸は血で紅く染まり、けれども其の先で誰かと繋げてくれる事は無く。
ただ、痛みが広がるのみ。
「……う?」
其処で、社長は目が覚めた。目の前には心配そうな顔をしたドリスの姿。
「社長、大丈夫ですか?」
「えっ、あっ、僕、何日寝てた?」
「何日って、一時間ぐらいですよ。部屋を出た先で倒れていて……」
見渡せば、見慣れた社長室。服はいつものスーツ。全てが夢だったのかと荷物を漁れば、減った糸と消えた布が名残を残していた。
(夢、じゃない。でも時間は経って無い。……僕の時間軸どうなってるんだ?)
混乱する中、廊下から子供の声がした。
ドリスと一緒に見てみると、同じ顔をした二人の女の子が走っており、其れをシエイエスが追い掛け廻している。
「副社長! 仕事場に子供を連れては駄目でしょう!!」
「済みません、直ぐに帰らせます! ほらお前達!!」
「良いんじゃないかな、僕も昔よく出入り……」
其処で、社長は言葉を止めた。視線の先にはシエイエスが双子から取り返そうとしている、紅い指輪。
(……世間って、狭いね)
最初のコメントを投稿しよう!