1色目・私のパレット

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ミーンミンミンミンミン──── 6月中頃・・・空梅雨のせいか早くも初夏の日射しが差し込んでいる教室。 その窓辺に私は佇んでいた。 これからの季節を、彩るはずの蝉の声が私に届いてくる。 少しばかりフライングしてしまった蝉達なのか。 その声は疎らで、合唱と言うより輪唱のように聞こえて来ていた。 ほとんどの人は、あと少しで突入する夏休みを前に浮き足立っているのだろう。 当の私は、少し・・・いや──── ハッキリ言って、どうしようもないくらい悩み続けている。 「どうしよ・・・全然まとまらない。」 梅雨のようにどんよりと曇った頭では、まともなアイデアやイメージなんて浮かぶはずもない。 ただ、空を眺めてはウンウンと唸るばかりだった。 この姿を周りから見た時、どう見えるのだろうか。 ここが洋館やお屋敷なら、【窓辺で憂う令嬢】に掠るくらいはするだろうけど。 いや、せめて掠って欲しい。 まあ・・・そんな希望はともかく。 今の私は、それとは真逆──── 言うなれば、【廃墟に佇む幽霊】のように見えるに違いない。 なんて・・・ 自虐的にも思える事を平然と考える辺り、相当追い込まれているのが自分でもわかる。 ガラガラガラッ! その時、私の耳に勢い良く教室のドアが開かれる音が聞こえた。 「や~っぱりここだぁ。」 「あ・・・きぃちゃん先生────」 振り向いた私の視線の先には、部活の顧問である【きぃちゃん先生】こと衣川先生が唖然とした表情で立っていた。 「うわ・・・あんた凄い顔してるよ?」 「そんなに凄いですか?」 「うん。窓辺に佇む幽霊みたい。」 まさかの合わせ技だった────
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