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「ねぇ、お母さん。またあの話をしてよ」
そう言って、嬉しそうに木で出来た椅子に座り、足をプラプラさせながら笑みを浮かべるのは5歳くらいだろうか?
いつまで経っても、話をしてくれないお母さんに待ちくたびれたのだろう綺麗な金色の髪の毛を二つ後ろで三つ網をいじり始める。
「はいはい、ちょっとまってね」
そう言いながら白いエプロンを身に着けた、少女と同じ髪の色で日に焼けて少し小麦色になった肌を覗かせながら20台後半程の彼女は、ゆっくりと傍にあったもう一脚の椅子を手にとり、そこに腰掛けた。
「本当にこの話が好きなのね」
「だって、面白いのだもの」
「どちらかというと、男の子が好きそうな話なのだけれど――」
目を輝かせ自分を見上げる自分の娘に、困ったような表情を浮かべながらお母さんはゆっくりと語り始める。
誰の記憶にも残ってない国を救った英雄と、彼に英雄になれるだけの力を貸した悪魔の話。
「今からほんの少し前、誰もが空気中にただよう魔力を扱う力があったにも関わらず、その力がない少年が居ました。
そのこと以外は全く普通の人と変わりません。ですが魔法を使う力が無い彼は、皆が簡単にやっていることでも、彼にはできなかったり、とても大変な思いをしなければいけません。
そんな少年は1人の少女に恋をしました。
それからしばらくたって、彼の住む街に魔物が攻め込んできました。
少年は少女を助けようと必死に頑張ります。ですが魔力を使う力のない彼には、とても厳しい戦いです。
少女が魔物に襲われてピンチになった時に、1人の悪魔が少年の元へとやって、悪魔は言いました。
『力を貸してやるから、その代償としてお前の記憶を寄越せ。俺は感情というものが知りたいんだ』
『彼女を助けられる力を貸してくれるなら、記憶ぐらいくれてやる。感情だって教えてやるさ』
と少年は悪魔と契約しました。こうしてのちに、誰の記憶にも残らない英雄とそれを支えた悪魔が出会いました」
これは誰の記憶にも残っていない英雄のお話。
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