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ドアを出た所で、一喜は視線を感じた。
店の目の前のガードレールに、煙草をくわえた男が一人。
グレーの瞳が、視線の主だった。
「ちょっと先に行ってて、あれ俺の車」
一喜は美保にそう告げて、男に向き直る。
「驚いたな」
一喜から声をかけた。
「ほんとに金髪じゃなくなってる」
伸のすぐ横に腰かけた。
「火かしてくれる?」
自分も煙草を一本口にし、伸が差し出したライターから火をもらう。
大きく吸い込んで、ため息のように吐き出した。
「お前のせいで遥は変わった」
伸は何も言わない。
黙ってただ、ゆらめく煙を目で追いかけている。
「ありがとうな」
一喜がそう呟くと、伸は煙を追うのを止めた。
「あいつは…あんたに残酷な事したって、ずっと気にしてたよ」
「慰めんじゃねえ」
伸が初めて口にした言葉は強く遮られた。
「遥に会いに来たんだろ」
一喜は立ち上がり、
「行けよ」
と言い残し、伸に背を向けた。
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