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『ずっとずっと、
会いたかった人がいたんです。』
彼はしずかにそう呟くと、その瞳をふせました。
風がながれました。
雲がちぎれては消えました。
それでも彼は、未だにまぶたを伏せたまま、またポツリとこぼしました。
『もうずいぶん前に約束したはずなのに、どうしてかあの人に会えません。
ここで待っていれば、あの人に会えるはずなのに。
雨がふりそうなこんな天気だから、ダメなんでしょうか?』
彼はそう言いながらも、草むらに咲いているタンポポをつみとって、花冠を作りはじめました。
『あの人は呑気な人だから、僕はここでゆっくりと待つことにしました。
そして、完成したらあの人にこの花冠をプレゼントしてあげるんです。
素敵でしょ?』
くもった空を見あげながら、彼はさらに目をほそめました。
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