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お互いに剣道をやっていたこともあり、俺達は競うように上達していった。そこに沙理と、少しして知り合った妹の玲奈が加わり、毎日が楽しかった。だが、平穏の日々は続かずある事件が起こる。
それは8年後、俺と刹那が中学の3年になったときだった。剣道での試合でヘトヘトになった俺達は暗い道を歩いていた。中学からの道のりでは伊集院家に着くには天馬家の前の道を通る必要がある。道を照らすのは満月の光と街灯だけ。そしてとても静かだったため油断していたんだろう。背後からエンジンの静かな車が近寄って来ることも気付かなかった。その時俺は右側、刹那が真ん中にいた。丁度天馬家の門の前だった。
車は決して静かに移動していたわけではない。スピードは出ていた。だが俺は気付けなかった。次の瞬間刹那の身体が浮かんだ。それと同時に横を車が通り抜ける。一瞬の出来事だった。俺は目を疑った。刹那は宙に浮かんだ後、地面に落ち頭から血を流した。俺は余りの出来事に暫く動けなかった。
30秒?1分?どの位の時間が過ぎたか解らない。何とか俺は動き出し、天馬家に入ってまだ起きているであろう爺さんに事情を説明する。
源「何じゃと!?」
爺さんが外に出て刹那の首に指を当て脈を測る。
源「今は辛うじて生きてはいるが、この状態では非常に危険じゃ。しかも今から医者に見せても間に合わん可能性が高い。」
零「どうすれば…?」
源「一つだけ方法がある。」
零「どんな…?」
源「刹那の人格と魂を零二、お前の中に入れるんじゃ。」
零「俺の中に?」
源「そうすれば刹那はお前の中で生き続けられる。いつ目覚めるかは解らぬがな。だが、それには移る器と受け止める器の同調が必須だ。」
零「同調?」
源「感覚を共有するということじゃ。」
零「感覚を共有って?」
源「つまり五感である視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚全てを刹那と合わせる必要があるんじゃ。」
零「そんな事出来るのか?」
零二の疑問は最もだった。今までやったことのない、むしろやることの無い筈のことをやれと言っているのと同意味だからだ。
源「出来ないはずはない。一緒にいることが多かったお前にしかできない事だ。」
源三の言葉に零二は戸惑う。全くの未知の体験に足がガクガクと震えた。呼吸は荒く、肩で息をし、刹那の様子を見る。出血が酷く、表情が蒼い。結論を出したようにゆっくりと頷きながら、零二は口にした。
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