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「・・・・・・ねえ瑞穂さん、もうちょっと離れない?」
「えっ!!い、嫌ですか?!」
「嫌なんかじゃないけど」
(むしろ嬉しいけどさ・・・・・・)
12時過ぎ――
枕元の薄暗い電気の中、同じベッドで有明と瑞穂は横になっていた。
以前この場であった『あんなこと』は瑞穂は忘れてしまったのだろうかと思うほどに警戒心はなく、背を向けて寝る有明の後ろから腕をまわしてベッタリとくっついている。
これほど警戒心がないのは『瑞穂が生理』ということだけだ。
(瑞穂さんが生理でも俺の心境は変わらないってわかんないかなー・・・)
とくに、先ほどあんなものを見せられては余計に意識してしまう。
(って、俺は加津佐か)
加津佐と書いて変態と読む。
「瑞穂さんのバカ」
「え?何ですか?」
「なんでもないよ」
ひとつの布団で共有した体温。
背を向けた有明にすがるように後ろからくっつく瑞穂は普段からは見ることはできない。
聞こえづらかった瑞穂はさらに体をくっつけて顔を寄せた。
有明の首元に瑞穂の息がかかる。
「困る」
「え?何がですか?」
「・・・なんでもないよ」
ご機嫌な瑞穂は有明の背中にぐりぐりと頭をこすり付ける。
「・・・先生、こっち向かないんですか」
人の気も知らずに甘えた声。
「・・・・・・羊が一匹、羊が二匹」
「え?先生?」
「羊が三匹、羊が四匹」
「・・・・・・?」
瑞穂の言葉を無視してもくもくと羊を数える。
(無理無理。いろいろと無理)
気を紛らわすために、そして早く寝てしまおうとただひたすら有明は羊を数え続けた。
――10分後・・・。
寝息に合わせてゆっくり上下する体――・・・
を、背中で感じ有明はまだ起きていた。
(なんで俺の羊で君が寝るかなー・・・)
眠りながらも瑞穂の腕は離れない。
それどころか抱き枕扱いで足まで絡める。
「ぬーー・・・」
また、瑞穂が顔をぐりぐりと背中にこすり付けた。
・・・・・・背中が冷たい。
(あ、今よだれついた)
当然、次の日有明は寝不足の顔をして教壇に立つことになる。
幸せなような、辛いような――・・・
有明の初めて瑞穂と過ごす誕生日はこんな感じで幕を閉じたのだった。
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