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「へぇ……やるじゃん鬱陶しい」
ナイフを振りかざしたリトの背後。現れたウェンディは長剣を突きの状態で構え、流れに逆らわずリトを貫いた。
間違った表現でも誇張表現でもない。確実に脇腹を貫いたというのに、ただ平坦な口調で話すリトは── 一体なんだ。
『貴ッ、様……!』
血を吐きながら笑うリトは、手に黒色を集める。その様に表情を歪めたウェンディは、そのまま長剣を薙ぎ十字架を破壊する。
-Bloody'shaking-
「〝差し延べるは悪魔の左手〟」
十字架を破壊したウェンディはリトから一度狙いを外している。薙いだ姿勢の彼女は無防備、その腹部へとリトは拳を構えた。
「させ──るかァッ!」
「あはッ! カッコいいねシグレ!」
鬼々雷々を使って二人の間に割り込み、鞘に納めた刀で拳を受ける。しかしその黒色は、尋常じゃない重さを孕んでいた。
-Moon!-
『〝守護聖域〟!』
バチンと。強固な拒絶が出したその音と共に、リトは屋上の柵へと弾き飛ばされる。
金属がしなる程の激突にすら、アイツは一つの悲鳴もあげない。
『エミル!』
「うるッ、さい!」
吹き飛んだリトを確認するより先にエルへと駆け寄ったウェンディは、身を震わせた。
胸を押さえながらも気丈を保つ主の姿に、何も思わないわけが無い。だけど自分だって、あんなに傷だらけだってのに。
「……最っ高だよシグレ。本当イイ感じに馴染んできたよ馴染んできちゃった。魔法が使えるって、こんなにも気味が悪いんだね」
ギィと金属を鳴らしながら立ち上がるリトは、そう言ってから何かを唱えた。そして足元に、黒い魔法陣を従える。
「まだまだタナトスには追い付けない……。けど追い付いたとき、オレは無条件で何もかもを追い越すんだってさ」
俺は刀の柄を握り締める。血の染み込んだ柄は、何故かとても掴み易かった。
「申し訳ない限りだから言っておくよ。皆の魔力のおかげでオレはここまで来れたんだ。本当に……どうもありがとう」
開いた片目は虚ろだと思ったが、違った。その目はただ単純に、禍々しい雰囲気を撒き散らすだけだった。
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