クランクイン

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 僕は怖がりだ。  幽霊とかお化けとか、オカルト染みたものが怖くて怖くて堪らない。どのくらい駄目かというと、学園祭レベルのお化け屋敷やくだらない心霊特番で絶叫するほどだ。笑いたいなら笑えばいい。  ついでに言えば、不良も怖い。そして今、通学路の途中で女の子が不良に絡まれている。 「やめろっ! その薄汚い手を離せ!」  僕は言った。勿論脳内で。  何せ絡んでいる不良三人のうちの一人は、我が海陽学園(かいようがくえん)の番長・大森だ。今時番長を名乗るなんて時代遅れもいいとこだが、その実力は一応本物。  恵まれたゴツい体型は毎日食べる校内食堂の大盛りカレーにより保たれていると言われ、生徒達の間では『大盛りの大森』という名で恐れられている。いや、真面目に。 「何だお前そのメイク? 時代遅れもいいところだぜ!」  と、自身も時代遅れの番長が女の子を馬鹿にしている。そこでようやく気づいたのだが、その女の子は俗にいうヤマンバギャルであった。  とうの昔に絶滅したと聞いたが、こんな偏狭の地に生き残りがいたとは。彼女が着ているのは間違いなくうちの学校の制服だが、校内にヤマンバが生息していたなんて、今初めて知ったぞ。おそらく先日入学してきたばかりの新入生か、もしくは新学年デビューの仕方を激しく間違えた二、三年生だろう。 「まるで妖怪だな」 「妖怪妖怪。ギャハハ!」  さて、そろそろ脳内で現実逃避するのもキツくなってきた。言いたい放題の大森トリオを冷めた目で見ているギャルの根性は大したものだが、このままでは流石に可哀想だ。  あくまで隙を伺っているという大前提の下で電柱の影に身を隠している僕だが、仮に勇気を出して飛び出した場合をシミュレーションしてみよう。
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