日 常 が 崩 れ る 時

5/13
50036人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
そうこうしている内に、あっと言う間に昼休みとなった。 昼御飯を買うため、デスクから財布をとりだしていると…… 「あ、良かった! 弥栄ちゃんまだ居た。ねー、今日こそは愛と一緒にお昼食べようよ。食堂に行こっ」 三階の現場で作業している、私の幼なじみ。 高橋愛子(タカハシ アイコ)が元気いっぱいに品質課に駆け込んできた。 ロングヘアーで二重の大きな目。 少しポッチャリとしているものの、笑うと出る彼女のえくぼは可愛らしい。 元気のある愛子は、年配の男性の間で特に人気があった。 私は目の前で手を合わせて謝った。 「愛、ごめんね。今日は一人で食べたい気分なんだ。それに天気も良いから外で食べようかなって思ってるの」 「えーっ」 愛子は明らかに不機嫌そうな顔をつくる。 「いつも言ってるけど、私特殊だから……。一人でいる時間がないとストレスが溜まって爆発するんだ」 こんなこと言えるのは、幼少からの付き合いがある愛子だけかも知れない。 自分でも分かってる。 ……私は面倒くさい奴だ。 人と話すのが嫌な訳じゃない。 ただ、長時間、人と居ることが苦痛なのだ。 息が詰まりそうになる。 逃げたくなってしまう。 一人なれる時間がないと自分が潰れる。 おかしくなりそうなんだ。 こんな私の考え…… 一体何人の人が分かってくれるのだろう? 愛子は私の申し訳なさそうな表情を見て、プッと吹き出した。 「もー、弥栄ちゃんの事はちゃんと分かってるって! そんな顔しないでよ。ちょい、意地悪しただけだし」 「……愛、ごめんね」 愛子は手を左右に軽く振った。 「良いよ、弥栄ちゃんがあたしに気を使ってないことが逆に嬉しいし」 そう言うと、愛子はパタパタと音を立てながら廊下へと出て行った。 私は彼女の背中を見て思った。 ありがとう、と。 私は良き理解者に恵まれたものだ。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!