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ゴウン……と重々しい音に合わせて闘技場北側にある格納庫のドアが開く。
出てきたのは自動甲冑兵十数体と、八つの細腕を生やし、赤ランプを灯す五台の対侵入者モードの整備ロボットだ。
それらは自身に組み込まれたマイクロコンピュータから『襲撃者を確保及び無力化する最も的確かつ迅速な方法』をプログラミングし、まずはバトルフィールドを取り囲もうとする。
さらに選手用の出入り口から治安維持委員会の本部役員達が出てきた。全員手に魔武器を携え、襲撃者に迫る。
「……ケッ、邪魔するヤツが増えちまった。あーウゼェ」
柳生の表情は言葉の通り、心底鬱陶しそうだった。しかし、彼の表情や雰囲気に焦りは感じられない。
龍人は思う。彼らが総出でかかったところで柳生に敵うはずがないと。
そもそも前提が間違っている。
柳生は『襲撃者』ではない。
柳生一心という男は、醜悪で凶悪で残忍で残酷で、最悪最低悪の権化負の塊という表現が生ぬるく感じられるほどの──ただの『殺し屋』だ。
「初唱烙印№121:【光糸】」
柳生が小さく口を動かして詠唱すると、両手の親指と小指を除く三本の指の先から、計六本の光の糸が伸びた。
「ガラクタの分際で、俺に敵意を向けてんじゃねぇよ」
まるで手前に鍵盤に手を乗せるように、柳生の両腕が胸の少し下ほどまで上がる。
龍人はすぐさまその場に伏せた。
「ガラクタはガラクタらしく……狂わしく踊り潰れやがれ」
左右の人差し指から出た【光糸】が、獲物を狩る蛇のように動き、左端の整備ロボットの細腕と右端の自動甲冑兵の胴に巻きついた。
【光糸】の太さは極めて細い。しかし術に流す魔力の量によってその強度は鋼を優に超え、一〇tトラックだって軽々と持ち上げられる。
つまり、
「……らぁっ!!」
柳生は両腕をクロスさせ、紙同然の重さしかない金属の塊を振るい正面にいた機械部隊を薙ぎ払った。
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