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「……怖く、なった?」
困らせてる。迷惑かけてる。
そんな気持ちでいるうちの頭の上から落ちてきたのは、柔らかい声。
「何が、です……か?」
震えた声で問えば
「……私を」
震えた声が……返ってきた。
「……直が止めるならば、止めたい。だがこればかりは……聞くことは出来ない。
そんな私は、怖いか?」
人を斬る。
命を奪う。
どうしてでも止めてほしい。
我が儘だけど止めてほしいっ。
人を斬る気持ちを知りたくもないし斬るわけでもないうちの、甘い思い。
そのせいで九一さんに声を震わす程の不安を与えたとなると、本当に自分の甘さに嫌気が差してくるけど。
怖いものは怖いんだっ。
……でも。
「離れたく……ありません」
九一さんと問いに合ったちゃんとした答えじゃないけど、だって……どんなに怖かろうがそれ以上に離れたくないって気持ちが上回ってるから。
矛盾してる自分に自己嫌悪に陥ってしまって、深く深く俯いた。
でもそれは
「……怖くとも、離れないでほしい」
頬をやんわりと包まれて、前を向かされた。
溢れだした涙で視界はぼやけてしまってるけど、九一さんが笑みを浮かべてるのは微かに分かった。
「……直は己の気持ちを誤魔化さずにいればいい。怖いのなら、怖いと言えばいい。……だが、それを気に病むことはない。
斬るということは、己の覚悟であり罪なのだから。
そして覚えておいてほしい。私は斬る理由を人に押し付けない、と。……命の重みを誰かに押し付けて、己だけ楽をしようなど……絶対にしない。
だから直は、今のままでいい」
「っ」
優しい笑顔。
甘やかす言葉。
どうして……どうしてっ!!
うちは九一さんを否定してしまったというのに!!
矛盾を表してしまったというのに!!
「どうして……甘いんですか……」
怒ること責めることもしないで、優しくできるの?
九一さんが甘やかせば、うちはそれに甘えて側にいてしまうというのに……。
そしてうちは側にいさせてくれる九一さんに、何もしてあげれないというのに。
九一さんは見返りを求めて甘やかしてるんじゃないって分かってるけど、何もしてやれない自分が……嫌だ。
何もしてやれずに、のうのうとしているのが……嫌なのに。
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