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「……命とは、己の晒した失態を消せる程の価値がある。それ程までの重みがあるのだ。重いそれを奪うのなら、どうすればいいか……。私はたまに、これを考えていた。
そして直」
「はいっ」
名前を呼ばれて思わず背筋を伸ばしながら返事をすれば、どんな甘味よりも甘い笑みを浮かべられた。
重ねられた拳を、九一さんの手がそっと開かせて絡ませてくる。
「……生の執着こそが誉れ。お前の言葉に教えを与えられ、考えに至った。
だから私は、罪の分……生きていく。何があっても、だ」
そんな……考えをしていたなんて。
話してる最中に時折見せた苦しげな表情は、きっと今まで何度も、人を斬ることに悩んできたからなのかもしれない。
命を奪うという行為は、何年も何年も……頭を悩ませるものなんだ。
そうやって命とは何なのかを考え、では代償としてどうするのかを考え抜いて……。
人それぞれの考えを導きだしていく。
そしてそれに背かないよう前を向いて……。
そんな大切な考えをうちなんかの言葉で導きだしたなんて……良かったのか、悪かったのか、自分の中でぐるぐると小さな渦が回る。
九一さんの悩みに確固たるものを出させたのは嬉しいものだけど、反面、人を斬るのを止めるのに至らなかったことに……悔やみが沸く。
九一さんの優しい笑みを見ているのができなくなって、俯いてしまった。
「……勘違いをしないでほしい」
ぽんと、大きな手が頭に落ちてきた。
「……私は直の言葉を聞いただけで、答えを出したのは私自身。だから……直が気に病むことではない」
「でも……考えを聞いといて何だけど。うちはやっぱり……人を斬るのは嫌です。斬ってもらいたくない。出来ることならば止めてもらいたいっ」
頭をぽんぽんと優しく叩いてくる手に押されて、堪えていた本音が溢れだしてしまった。
受け止めると決めたくせに、それの矛盾を吐き出してしまえば九一さんさんを困らせるだけなのは……分かってる。
でも慌てて口を閉じようとしても
「人を斬る九一さんなんてっ、見たくないです!!」
止まらなかった。
うちの膝の上にある九一さんの手の甲に、ぽたりぽたりと雫が落ちて……。
ああ……うちってば、泣いてしまってるんだ。
九一さんを……否定しちゃってるんだ。
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