出発

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第1章:出発 ~唯 SIDE~ 『あった?』 「あったー!」  自分の事の様に嬉しくて、涙が零れる。どれだけ頑張ってきたか、一番近くで見てきたから良く分かる。  勉強に時間を割きたくても出来ない現実…。  苛立つ思いがあっても、いつも私の隣で笑っていた。どんな時も笑っていた。  その笑みは痛々しく「もう、いいよ」と言いたかった。けれど、笑う事で自分を励ましているようにも見えた。  だから私は一番近くで笑った。「頑張って」と想いを込めて笑った。 『皆に連絡しないと』 「ああ」  教室に皆揃って待っているので、一人に連絡を入れれば済む。それなのにジッと携帯を見ているだけで、掛ける様子が無い。  じれったくて、私が掛けたくなる。その手に持っているだけの携帯を取り上げたくなる。 『雅!』  大声を出した直後に後悔をした。  周りの視線が私達の方へ一斉に向けられる。  今まで自分の事で精一杯だった人達でも、大声のする方へは気が向くらしい。  それだけのゆとりを取り戻せる時間が立った事を知らされた気分になる。  今の私達は、何処から見ても正体が分かる格好をしている。そっと隣に視線をずらすと、大きな溜息をついていた。  失敗するなら、雅の方だと皆は言っていた。見事に外れたが、今はそれ所では無い状況だ。  意識を現実に戻さないと…。
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