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あぁ、驚いた。晴にまさかキスされると思わなかったのだよ。
と、晴が何故か機嫌良さそうに去った背中を思い出して、何だか熱いような気がして頬を触れば、熱い。
「……ビックリした」
晴は僕の友人で、別にそう言った感情を抱くことは有り得ない。
それにしても、挨拶にキスをするような人間だと思われているらしいにしても、まさか晴からしてくるとは。
そんな軟派な感性をいつから、僕からすれば晴はどちらかと言えば同性間のそう言った接触は嫌いな硬派のポジショニングだったのだけれど。
よく権蔵が抱き着くと怒っているし。
突然は心臓に悪い。
もしかして、僕を驚かせたかっただけならば間違いなく成功だけれどねぇ。
「何やら最近、バーゲンセールのような扱いだけれど」
僕の唇はそんなに安いのだろうか。
隙が多いのかな?
無駄にガードを固くするのも、どうかと思うけれどねぇ。
……沢渡くんにはそうしても良いかな、うん。
隙あらばして来ようとするし。怖い怖い。
「栞」
「おや、玲司。どうしたんだい、僕のクラスに来るだなんて! しかもこんなに朝早く! 僕に会いに来てくれたのかい?」
ドアを音もせず開け、玲司がするりと入って僕の傍に寄ってきたので、今までの思考を放棄して見上げれば真っ直ぐに見返してくれる。
「どうしたのかな?」
「……今日」
「今日? ……あぁ、転校生くんとの約束の日だねぇ」
「俺も、ついてく」
「ついていく、と言うのは、転校生くんに会いに行くときかい? でも、転校生くんの他に沢渡くんも居るのだけれど、嫌いでは」
「平気。栞、見てる」
「でも、彼らは静止画じゃないから動くし喋るよ? 大丈夫かい?」
「別に……興味ない。俺は……栞が居れば、それで良い」
そこでそっと手を掴まれ、動かない表情のまま見詰められて。
僕のこの学校で初めての友人は、こんなにも僕を必要としてくれている。
それだけで、何だかとても嬉しくて、つい頬が緩まってしまう。
だらしがない顔を晒して申し訳ないけれど、でも、玲司がこんな事を言ってくれるのは僕だけと言うのは、何とも特別なことのように感じてにやける顔が止まらない。
「飽きられないように、これからも君と友人で居たいよ、玲司」
「俺は……友達は栞だけで良いって、これからもずっと……ずっとそう思う」
そこで目元を和らげる玲司は、教室のドアが開いた瞬間にいつもの無表情へと戻ってしまった。
あぁ、レア顔が!
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