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(SIDE:晴)
笑う犬養を見下ろす。
なんつーか、こいつがオレの前で笑ってんのならそれで良い気がして。
……末期か。
「君と話しているお陰で、そろそろ誰かが登校してる時間になるねぇ」
「……読書の邪魔したって言いてぇのか」
「いや、いつもと違う朝も悪くないと思ってね。まさか不良の君とこんな早朝から会話を楽しめるなんて」
こいつ不良を何だと思ってんだ。
いつもサボらないだの、勉強出来るだのなんだの、テンプレ不良に夢抱き過ぎだろ。
「今朝からいつもと違うから、今日は波乱な一日になりそうでワクワクするのだよ」
「ァア? 何かあったのか?」
「え……いや、何、些末なことだよ。君が気にするようなことはないさ」
「…………」
一瞬目を開き、すぐに誤魔化すように手を振る犬養に、イラッとした。
何でかわかんねぇけど、オレにとって都合が良くねぇってことはわかる。
「……バ会長に会ったみてぇな面してんな」
「おや、よくわかったねぇ。もしかして晴はエスパーなのかな?」
カマかけたらヒットした。
楽しそうに笑う犬養に無性に腹立つ。
「転校生くんとの約束の期限が今日だと、わざわざ朝から確認しに来なくとも良いのに、沢渡くんも忙しい癖に暇人だよねぇ」
目を細めてあんな奴のことを話すんじゃねぇ。
些末なことだって言った割りに随分楽しそうじゃねぇか。
口に出せずに居る言葉に気付くはずもねぇ犬養は、不思議そうにオレを見上げる。
「どうしたんだい? 気分が優れないのかい?」
「別に……そろそろ戻る」
「教室に? ふふ、今からふて寝だね!」
しねぇよ。
どんだけオレをテンプレにしてぇんだよ、と思い見下ろすと、いつもより機嫌が良さそうな犬養に、朝っぱらからバ会長に会えたのがそんなに嬉しいのかよと勝手に嫉妬しちまう思考が鬱陶しすぎるから。
「? 晴、どうし──」
全部、こいつのせいってことで。
顔を離して再び見下ろせば、目を見開いた犬養の顔が少し赤くなる。
それだけで十分だ。
「な……にを、急に、ビックリするではないか」
「何動揺してんだよ、てめぇの言う挨拶みてぇなモンなんだろ?」
「…………。まさか、童貞疑惑の晴から出る言葉とは思えず絶句してしまうねぇ」
しっかり喋ってんじゃねぇか、と呆れるが、予想より悪くない顔をしてる犬養に、ざまあみろと鼻で笑って後にする。
オレを惚れさせたてめぇが悪ぃんだよ、アホ。
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