賀河慎吾

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唇を塞いでいる左手からは、微かに笑い声が漏れている。 しかも何がそんなに可笑しいのか、佐伯の目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。 ああ本当にムカツク男だ。 完璧バカにされてる。 遊ばれてる。 だけど佐伯がこんなふうに笑うのは本当に珍しくて、 佐伯は今本当に笑いたくて笑ってるのかと思ったら・・・何だか変な気分になる。 「佐伯君のこと嫌いじゃないけど・・・ 私だって何も勘付いてないままで、アナタを相手してるわけじゃない。」 半ば呆れながらも、佐伯の笑いのツボはどこにあるんだろう・・・と思いながらも、 明瞭とした声でそう言うと、佐伯は俯かせていた顔をやっと上げた。 そして真意の分からないその両眼のブラックホールで、また私をジっと見つめる。 「佐伯君は、私に何かして欲しいことがあるんでしょ? だから私に近づいたんじゃないの?」 「・・・・・・」 「佐伯君の言葉は分かりにくいの。 私に何かしてほしいことがあるんなら、ちゃんと分かりやすくハッキリ言って。 ・・・アナタの言葉を解読するの、すごい疲れるのよ。」 「・・・・・・」
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