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2010年。東京、六本木。
立ち並ぶ数々の高層ビルや大型商業施設。日付も変わろうかというのに、道路には車が途切れる事なく走り続け、路肩は客待ちのタクシーがずらりと並ぶ。
話し声に笑い声、怒鳴り声や歌声。客引きに電子音。すでに溶け込んだ様々な国の言葉が飛び交い、数え切れない光が人々を誘っている。
「前原さんありがとう~、 今日もごちそうさまぁ。」
「いやぁ~、こちらこそ。結愛ちゃん!出張から戻ったら同伴しようねぇ~」
そこらじゅうに立ち並ぶ、クラブやキャバクラ。酒とタバコと香水の匂いが混ざり合う。
彼女は
観月 結愛 (ミズキ ユメ)
20歳。現在キャバ嬢。
結愛は馴染みの客を店の外まで見送ると、暗くて狭い六本木の夜空を、ぐっ…と見上げ大きく深呼吸をした。
「……はぁぁ~っ……。
…………………?」
…くそぅ。もう来たか……
……タタタッ
「あっ!やっぱまだ外にいたっ!も~っ結愛ちゃんっ!!
早く入ってぇぇ!!
川口さんはヘルプとの会話放棄、谷さんの所は
『結愛が席に戻ったらラトゥールおろしてやる』
って言ってるし、他の席もガンガン廻らないと時間ヤバイ席だらけなんだよーーっ!!」
店内から慌てて出てきた店長の藤原が、結愛の細い腕を引っ張り、早口で捲し立てながら、柔らかな間接照明とピアノの生演奏が流れる店内へと早足で連れ戻す。
「ゔぅっ……。休憩させてよぅ!鬼ぃぃーー!!!」
結愛は同伴出勤してから、多数来てくれている、自分の客達の席を数分づつ順番に、休む暇なく廻り続けていた。
藤原がVIP席の前でピタリと立ち止まり、真面目な顔になる。
「失礼します。谷様、結愛さんです、たいへんお待たせしました!」
その声と共に、今までぶーたれて、しかめっ面をしていた結愛の表情がスッと変わる。
「失礼します。谷さん、遅くなってすみません。さっきのお話の続き、聞かせて頂けますか?」
No.1に相応しい、眩い程に美しい笑顔へと…………
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