思い立ったがなんとやら

2/4
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
北の大地は今日も凍てついている。溶けることのない永久凍土に覆われて、わずかに生える木々も似たようなものしか生えず、どこもかしこも同じ様な風景が広がっていた。 その景色に溶け込むように立つ白壁の城は静寂に包まれていた。原因は主の機嫌の悪さである。白い肌に流れるような銀色の長い髪、瞳の色は金色。玉座に頬杖をついて、眉間にしわを寄せて、周りの空気を凍り付かせんばかりに睨み付けていた。 「おい、宰相」 傍らに立っていた長身の男が「ひっ!」っと小さな声を出して、すくみ上がる。 「な、何でございましょうか?魔王様」 玉座にだるそうに座る男におずおずと長身の男、宰相はきいた。 「暇だ。宰相、なんとかせい」 「ひ、暇でございますか…で、では先日献上された今年のワインでも開けましょうか?それとも、人間でもさらってきて、なにぞ見せ物でもやらせましょうか?」 魔王は足を組み直して、けだるそうに銀色の髪をかき上げた。 「もう、そのようなものは飽きたわ。一層のこと、勇者でもせめてこればいいものを。ここ何十年、そんな気配もない。つまらぬ」 「はぁ。それは魔王様が強すぎるのでもはや人間があきらめたのではないでしょうか…確か、最後に人間がせめてきたのは50年ほど前のことでしたな。いっそう、人間の国を侵略でもすれば、抵抗もあるのではないでしょうか」 宰相はかけているモノクルを直し、懐から出した手帳をめくりはじめた。 「戦争か。悪くはないが、圧倒的すぎてそれもまたつまらぬ。それに、私は結局玉座で座り続けなければならないだろう。暇に変わりない」 魔王はだらしなく、玉座に座りながら、背中を滑らせて、寝そべるように座った。 「魔王様、もしや…なにかやりたいことでもございますか」 「ほぉ。さすが長年私に仕えいることだけあって、察しがいいな、宰相」 魔王は綺麗に生えそろった歯を見せて不敵に笑う。宰相は実際に汗こそ流してはいないが、口を真一文字に閉めて、半ば泣きそうな顔で絞り出すように声を出した。 「いったい何をお考えなのでしょうか」 「ふふふ、宰相。人間の服を2着用意しろ。なるべく庶民のものをな」 この世界で一番恐れられている魔王に逆らえるわけもなく、宰相はため息混じりに「かしこまりました」と一礼をして、玉座の間から出て行った。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!