“銅家”

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火芽香(ひめか)、火芽香。着いたよ」  少し焦ったように呼ぶ声と、肩を揺さぶられる感覚で火芽香はハッと目を覚ました。  しまった寝てしまったのかと慌てて時計を見ると、もう21時をまわっている。  ここまで来るのに5時間近くかかったことになる。  下手したら隣県など通り越しているかもしれないが、寝てしまったので一体どこまで来ているのか 見当もつかない。 「行こう。みんな待ってるから」  寝起きの火芽香を気遣って、叔父が手を差しのべてきた。  着いてしまったのなら、もう逆らいようがない。火芽香は言われるままに車から降り、夜闇の中に目を凝らして周辺を見回す。  するとすぐ目の前に寺院の入り口を思わせるような、見上げるほど大きな見事な(かし)の門があった。 その右側の支柱には堂々と大きな白い石が埋め込まれている。 表札らしきそれに目を凝らすと、黒い行書体で、『銅』というたった一文字が彫られていた。 「どう……?」  火芽香がそれを素直に音読みすると。 「“あかがね”って読むんだよ」  叔父が車にドアロックをかけながら正しい読み方を教えてくれた。
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