それで良い

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「おはようございまーす。検温です。」 …クソッ、やっと眠れそうだったのに 早川さんは元気だ これが終わったらやっと家に帰れるのかも 看護婦って大変な仕事だ 昨日(今朝)は結局眠れず、読みかけだった小説も読み終わってしまった 眠れなかったのが嘘のように瞼が重い 「ねむれた?」 綺麗なその笑顔には昨日の怯えはない …看護婦って大変な仕事場だ あたしには無理 間違いなく無理 敵意を向けられたら、叩き潰さないと気がすまない -ピピピピっ 小さな電子音がなって、体温計を手渡す 「ちょっと低いね」 数字を手元の紙に書き入れた 「おはよー」 美和子は高らかに声をあげ、朝が苦手な拓斗は無言で部屋に入ってきた 最近は午前中にここへ寄り、午後から仕事へ行くことが多い 一日中休みを取ろうとする美和子を止めたから 仕事が早く終われば、もう一度会いにくることもある 飽きないのかな よく鯉太と鉢合わせずに済んでるなと思う つくづく隙のない男だ 「おはようございます」 早川さんの爽やかな笑顔に負けないくらい、美和子はにっこりと笑い 拓斗は面倒そうに頭を少しだけ下げた 美和子は男が嫌いだけど 拓斗は女が苦手 よく結婚したもんだ 「雛、疲れてる?」 首を横に振った 疲れてるっていうか眠い 超眠い あくびを噛み殺す 「じゃあ、失礼します」 秘密にしてくれるのか 早川さんは苦笑いを浮かべ出ていった 「拓斗、ご飯とってきて」 美和子は鞄をさぐりながら拓斗に命令した 「今日は雛の好きな物作ってきちゃったー」 声も態度も真逆 拓斗は大人しく美和子の言うことを聞く 蛇つかいみたいだ でっかいお弁当箱の中にはあたしの好きな 唐揚げ タラコのおにぎり ポテトサラダ キンピラゴボウ 餃子 「それと、ほら」 チョコレートケーキ1ホール …何のパーティーだ 何の 「嬉しい?」 この人はあたしを甘やかす時、甘えた顔をする 昨日の事を気にしてるんだなと思った 「…太っちゃうよ」 あたしは苦笑いを浮かべた 病院の食事制限なんて、まるで無視だ 「いいよ、いいよ。 余りは拓斗に食べさせよ」 「おい」 拓斗が低い声を出すと、美和子はより一層楽しそうに笑った まずそうな病院食と あたしの好きな物が詰まったお弁当箱 親子3人で囲む 朝8時半からのパーティー 何だか苦しかった
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