それで良い

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まただ 夜中に突然目が覚めた 呼吸が乱れる 苦しい 「…っっ」 胸を掴み、自分の体を抱きしめた 強く ナースコールを手にとる 枕元に置いてあった本がバサバサと音をたてて、落ちていった 「……っ…ひっ」 ボタンに手をかけた瞬間 『あと、3ヶ月…発作が起きたらもう少し短くなる可能性も』 風間さんの言葉が頭に浮かんだ 大丈夫 この位なら大丈夫 鉄パイプで鼻の骨を折られた時の方が痛かったし そう、この位なら大丈夫 深呼吸して、息を落ち着ける ゆっくりと白いコードに繋がれたナースコールを手から離した …うわ、汗だく 呼吸を整えて30分 ようやく自分がひどく汗をかいているのに気がついた 着替えたい… 起き上がるのだるい この間までは、あんなに暴れられたのにな… 手だけを伸ばし、電気スタンドのスイッチを入れた オレンジ色のぼんやりした光が部屋を照らす それだけで少し気持ちが楽になった 時計を見るとまだ3時 外は真っ暗だ 手で額の汗を拭う こうなった日はいつも眠れない 体がぐったりと重いのに、頭は異様に冴えている どこか遠くの方で、バイクの音が聞こえてきた …そっか この時間まで走ってたっけ 追うようにパトカーの音が重なる 乗りたいな …いや、こういう考えは良くないっ! 油断するとマイナスに引っ張られる 良くない、良くない 考えない、考えない やめたんだから 考えるのは 思考を止めようと、重い体を起こした あたしは大丈夫 大丈夫 まだ痺れる手の平を見つめた -コンコン ひぃっ 突然のノックの音に、また一瞬息が苦しくなった 「立花さん?」 怪訝そうな顔をした早川さんの手には懐中電灯が握られている 「どうしたの?顔…真っ青じゃない」 そんなに酷い顔してるんだろうか 「…寝れないだけなんで、大丈夫です」 「そう?」 顔を覗きこまれる まるでガキだ 「先生に薬飲んでいいか聞いてみましょうか?」 「…大丈夫です」 「でも」 目が合うと早川さんは怯えるように体を引いた そんなに酷い顔で睨んでしまったんだろうか 部屋の空気がピンと張り詰めたのが分かる 八つ当たり これじゃ本当に ただのガキだ
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