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彰の驚いた顔にふと我に返った。俺は何を言うとんの。
すかさず訂正しようと口を開いた。
「あ、いや。やっぱ、嘉宮さ」
「かず兄。」
「え?」
「かず兄がいいです。」
彼が今まで見せた笑顔よりも、もっと優しく微笑むから。
「かずに・・・ぃ。」
そう呼ぶしかなくて。
そうすれば、彼は目を細めてにこりと笑った。
「上出来です。」
俺の頭をくしゃくしゃ撫でて席を立った。いつの間にかカクテルは空。
「マスター、代金ここに置いときますね。」
「はいよー。」
彼はレジの前に代金を置いて、扉へと歩き出す。
扉を開けて出ていく間際に、
「ごちそうさまでした。また来ます。」
そう言って俺を見つめて微笑んだ。
ガチャンと音を立てて閉まる扉。
「珍しいね。」
急に彰が言った。
「何が?」
「凌ちゃんが客と話してるの初めて見たよ。」
彰は何故か嬉しそうに笑って、また店の奥へと入っていった。
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