間章︰参与会議

7/14
3480人が本棚に入れています
本棚に追加
/488ページ
「一琉よ、公儀内外から、囁かれている藤森の姫の存在感、その利用価値を知らぬ訳ではあるまい?」 「……何だ、会津も狙ってる体か。それは、知らなかったな」 一琉は意味深な松平の視線を物ともせず、笑みを返す。 藤森は朝廷や幕府、両方に幅を利かせられる一族である。下手すれば、その権力を使い政局を有利に進める事も可能だろう。だが、藤森は権力を行使しない。 全ては帝、朝廷の意思を尊重し、自らは中立を保つ。 朝廷の盾と矛として生きると決めた千年前から、決められた定めだ。違える事は一族が内部から瓦解しない限り、有り得ないだろう。 だというのに、藤森を取り入れよう、藤森の縁戚に入ろうとしたがる諸藩は後を立たない。藤森に有益なものなら受け入れるだろうが、大半は露骨な優遇を期待してのすり寄りだ。受け入れる訳がない。 突っ撥ねるような言葉を放つ一琉に、松平は向けていた扇子を下ろし、小さく息を吐いた。 「厳密に言えば、欲しているのは私ではない。一橋公がやけに興味を持たれていてな」 「何でだよ! 何で、よりにもよって、面倒臭い……いや、相手にしたくない奴に目を付けられるかねぇ。アイツ、なかなかに手強いから敵に回したくねぇんだが」 先刻まで強気だった一琉の表情が、一変。不満気に染まり、苛立つように頭をガリガリとかいた。 名が上がった一橋公ーー徳川慶喜は、薩摩と朝廷の後押しで将軍後見職に任じられた、二十七歳の青年だ。水戸藩主徳川斉昭の七男として生まれ、幼い頃からその聡明さを謳われていた。将軍家慶の思召により、十一歳の時に一橋家を相続している。 一琉と慶喜の関わりは、幼少期から始まっていた。慶喜の母が織仁親王の末娘である登美宮であったことから、他の武家より面識は多かった方だろう。 安政の大獄により、隠居謹慎となった慶喜に文を送り、時勢について語り合っていた事もある。
/488ページ

最初のコメントを投稿しよう!