飛べない少年

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暑い日だった。気温はゆうに30゚Cを超え、加えて太陽とアスファルトからの纏わり付くような熱気に、ただでさえ軽くない足取りがさらに重くなっていた。 そんな日は外に出なければ、と誰もが思うところだが、そうもいかないのが学生の辛いところで、スケジュールの上では夏期休暇の真っ最中だというのに、補習という名の必修課題にこうして足を運ばなければいけないのだ。 とはいえ、この日の登校は、暑いという一点を除けば、それほど苦には感じられなかった。 いつもと違う時間に家を出て、いつもと違う人とすれ違い、いつもより空いている道を歩く。ただそれだけの違いが、繰り返しを嫌う僕にとっては、重い気分を幾分軽くしてくれたように思えた。 目的地までの道程はそう複雑なものではない。シャッターの閉まった商店街を抜けると、寂れた駅が見えてくる。その駅を左手にして線路沿いの道を行く。やがて見えてくる踏切を背にバイパスへと出れば、目指す高校はもうすぐだ。 車通りの少ない午前10時のバイパスを北上すると、次第に見慣れた制服がそこかしこから合流し、気がつくと周りには「いつも」が溢れていた。 そんなありふれた光景に、あぁそうか、と一人で納得する。結局僕はどこにも行けやしない。この緩慢な繰り返しを続けることでしか、生きていくこともできないのだ、と。 大したものも入っていない鞄が急に重たく感じられ、それを右手に持ち替えて校門へと急ごうとした。 そのときだ。やけに立ち止まっている生徒が多いことに気が付いた。皆一様に空を見上げている。その視線を追うと、漠然と空を見ているわけではなかったことはすぐにわかった。
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