1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「はぁ…はぁ…っ!」
全身を隈なく襲う疲労に耐え、『彼女』は息を呑んだ。
狭苦しいコックピットの中では、さっきから警報アラームが合唱している。
それはこれ以上の戦闘継続を、警告するモノだった。
(ダメージチェック……ヤバいわね。
手持ちの火器も残弾は0だし…打つ手無しか)
機体の耐久度はほぼ限界に近い。武器も殆どを使い尽くした今、戦闘を続けるのは非常にナンセンスだ。
コンピュータと脳髄も同じ指示を繰り返し告げていた。
『もう逃げろ』、と。
彼女はちらりと横目で現在の時刻を見た。
(後発組の『逃避』ももうすぐ終わる…。最終便までは…あと15分か)
今から急げばギリギリ間に合う。
此処で機を逃せば、二度と拓かぬ希望への回廊。
防衛の継続が困難になった今、これ以上留まる必要も無くなっていた。
「A1よりA2からD8へ!
そろそろ最終便が出る。動ける奴は全員『ゲート』に突入して!
これは最優先事項よ!」
『ラジャー!』
防衛に任いていた他の仲間に通信を送り、彼女も後退を始めた。
時間的にも、敵の増援が来るまでのタイミングも考えれば、今が最後のチャンスだ。
《8時方向より3機が接近。〈ギリィ〉タイプと推定》
AIが追っ手が近付いてくるのを告げた。
聞き慣れた合成音声がここまで恨めしく感じたのは、生涯初だった。
(どうする?時間も余裕が無いし…だけど、此処で奴らを野放しにも出来ない…!)
『ゲート』が有る施設には満足な迎撃兵器も備わっていない。
そんな場所に敵機を近付けては、敵はこちらをそっちのけで施設に攻撃をするだろう。
ならば取るべき策はただ一つ―誰かが殿を務めて、ここで敵を迎え撃つしかない。
―ただし、それは生存の可能性が皆無である、絶望への一本道であるが。
最初のコメントを投稿しよう!