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古い大きな洋館があった。
辺りの雰囲気とはそぐわぬ風貌のその建物。
『孤児院』
門扉に小さく書かれたそれも蔦が絡まり、古ぼけている。
辺りに民家や人気は無く、街の外れにひっそりと佇む様子は不気味でもあった。
「きゃあっ!!」
突然苔むしたレンガ造りの塀の中から少女の声が響いた。
驚いた小鳥が庭の大きな木からばさばさと飛び立っていく。
「アタシの思ったとおりだわ!超似合ってる~っ❤」
思わず悲鳴を上げた少女は瞳をキラキラさせながら喜んでいる。
「………」
「ちょ…ちょっと!待ってよ!待ちなさいってば!!」
「もう用は済んだだろ?邪魔しないでよ」
分厚い本に目を向けたまま、幼い少年が踵を返し、歩きだした。
その少年を必死に引き止める少女。
「ま、待ちなさいよっ!どこへ行くのよ…っ」
「カノンが頼み込んできたんだろ?僕は暇じゃない。用が済んだら後は僕の自由だ」
「そ、そういうコトじゃなくて…って、コラっ!!」
少年は気にも止めずスタスタと庭の端にあるベンチへと向かう。
「なによもうっ!相変わらずナマイキ!ど…どうなっても知らないんだから…っ!!」
カノンと呼ばれた少女は紅い頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向くとブロンドの髪を揺らしながら、どすどすと足早に洋館の中へ入って行った。
ベンチに座ると少年は小さくため息をついた。
やれやれ…。やっと解放された。
カノン…花音。
少年と同じくらいの歳。
北欧系と日本人とのハーフらしいが、確かに他の女子とはどこか違うオーラを醸しだしていた。
彼女も孤児…なんだよな…。
誰が見ても「可愛い」と褒めたたえる彼女が何故孤児なのか、一体何があったのかは知らない。
ここでは他人の過去には触れないのが暗黙の掟だった。
もちろん自分も他人に喋ったことはない…むしろ自分が聞きたいくらいだ。
『自分は何者なのか…』
知りたい…
何故此処ににいるのか。
自分の両親は誰で何処にいるのか。
単に捨てたのか…
それとも、何か事情があっての事なのか…?
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