序章

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―たった一滴でもいい、私はアナタの涙が見たかった―――― その出会いは、まさに運命だとしか言いようがない。 陶磁器の様な白い肌、艶やかな美しい黒い髪。浮かぶ雫は真珠の様に零れ落ち、頬を薄桃色の珊瑚の様に上気させ、金糸雀の様に美しい声で啼きながら、か細い腕で私の首に懸命にすがりつく。背中に走る痛みも、私を締め付ける苦しみも、咥内を蹂躙する苦味も、全て快楽でしかない。 乱れ、締めつけられる度に感じる。この子は天使なのかもしれないと。この薄汚れた私に裁きを下す為に、神が遣わした美しい… 黒曜石の瞳が、私を見上げてくる。この瞳で、どれ程の人間を、殺してきたのだろうか。 掌でその刃(ツルギ)を覆い、殺された私は、その唇でその息の根を止める。 差し出した剣は、熱く柔らかい。甘味を伴った苦味は、地獄の門へ私を誘うかの様だ。堕ちる瞬間、ふと、決して濡れることのないその瞳を、濡らしてみたいと思った…。
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