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「冬矢、とーうーやーっ! 起きろっ、このっ、おりゃっ!」
春の日差しが暖かい、五月。
私は教室の窓辺の席で爆睡する幼なじみを叩き起こそうと奮闘していた。
短めに切り揃えられてはいるものの癖のある髪がところどころにピコピコと跳ねたこいつは、周防冬矢(すおう とうや)。
少し日に焼けた肌は健康的な小麦色で、夏が本格的になればもっと凄い事になる。
家がご近所さんで、もういつから一緒にいるかすらわからないくらいの腐れ縁。
気が付いたら隣に居て、今もこうして傍に居るのが当たり前になっている。
実はそれだけじゃないんだけど……詳しくは、そのうち。
顔に日差しが当たらないようにか、ご丁寧なことに脱いだセーターを頭から被っていたから、それを引きずり降ろして隣の机に置いて。
ノートで頭をベシベシはたいたり、肩を揺すってみたり、大声を出してみたり。
いつの間にか教室からは誰も居なくなっていて、私とこいつしか居ないがらんどうの教室に、私の声は虚しく響く。
とにかく冬矢は不真面目な授業態度に定評がありすぎて、六限目に眠りについたこいつはとうとう帰りのHRになっても起きなかった。
大抵昼休みあたりから寝始めることを先生も把握しちゃってるから、諦めてスルーしちゃうし。
仕方ないから、私が起こしてあげようってわけ。
ところが叩いても揺すっても、挙句の果てに頭を何度か拳骨で軽く叩いてみても、一向に目を覚ます気配がない。
死んだのかってくらい安らかすぎる眠り。
だけど、すぅすぅと小さく聞こえる穏やかな寝息がそれを否定した。
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