雑魚ですが、なにか?

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オタクに目覚めた中学生時代を思い出す。 家族が寝静まった夜、ふと目が覚めた時に何気なく付けたテレビに映し出された深夜アニメ。液晶の向こうで輝く美少女たち。そこはかとなくエッチでギリギリを攻めたシーン。 当時ノーマルだった俺が受けた衝撃は筆舌に尽くし難い。一瞬にして虜になったのは言うまでも無いが、一方でオタクとして醸成されていない思春期の心は羞恥心も兼ね備えていたため、堂々と深夜アニメを観ることは出来なかった。 しかしまだPCやスマホは持っていなかったためネット視聴は叶わず、テレビに録画すると家族にバレてしまう。 そのためリアルタイムで視聴せざるを得ず、深夜こっそり家族の目を盗みながらリビングで深夜アニメに興じていたあの頃が……思えばオタクとしての第一歩だったと思う。 夜にアニメを観るだけという、ただそれだけのことが、初心者の俺には何よりもハードルが高かった。 だがそれも回数を重ねるにつれ手際が良くなり、夜中こっそり起きて誰にも気づかれずリビングへ辿り着けるようになった俺は確かに、オタクとしてもアサシンとしても覚醒していたに違いない。 そこからはもうトントン拍子である。 原作のラノベに手を伸ばし、ついでに別の作品もカバーし、声優を調べ、グッズを買いにアニ〇イトへ通うようになり、秋葉へ進出し、羞恥心が薄まって家族の目を気にしなくなり、イベントにも精力的に参加したり。 こうして険しいオタクへの道を少しずつ極めていった訳だ。 だがそれも、あの日あの夜あのアニメを観なければ始まらなかった。 魔法もまた同じだろう。ただ魔素を知覚するだけという初歩の技術とはいえ、これを(おろそ)かにしては先の発展はとても望めない。 全力で魔法業界に対して失礼な比較をしている気もするが、細けぇこたぁいいんだよ。 「とりあえず今日はこのまま知覚を続けることにするよ。わざわざ教えに来てくれたのにスマンカッタ」 「気にしなくていいって。しばらくはこれでマウント取らせてもらうつもりだから」 にししし、と綺麗な歯並びを見せつけてカレーパンが笑う。 その歯茎にカレーの残りカスが付着してないことを確認した俺は心底安堵し、皆の元へ戻っていく彼女に手を振り見送った。
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