胸の傷と、仕組まれた偶然

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  (ああ、そうだ……僕はあの時、とても大切な彼女を守ろうとして、傷を負ったんだ……) 思考が過去への風に乗って飛んでいく。 ーーーーーー…… 「っやだ、やだよっ……死なないで!ロウ……ッ!」 斬られた後、少し気を失っていたロウは、あの武士はどうなったのか分からなかった。 「あ……つ、は……」 「……大丈夫、どっかに行っちゃったから!」 「……は……だ、じょ……ぶ…?」 「大丈夫!大丈夫だから!頑張って!」 必死にロウの手を握って励ます彼女は、大きな雫をポロポロと溢している。 「ごめんねっ、ごめんね……!私が、私のせいでロウがこんな目にあっちゃってっ……!」 自分を責める彼女を見るのが嫌で、何度も泣かないでと心の中で願っていた。 自分は、彼女が自分の名前を呼んでくれるのが好きだった。 惣次郎やソウと呼ぶ人が多い中、彼女は自分だけの呼び名を決めた。 それが『ロウ』だった。 最初に出逢った時は目に光りがなくて、元気もなかった。 でもめげずに傍に居続け、やっと心を開いてくれるようにまでなった。 全てを拒絶しているかのような無表情の顔なんか見たくなくて、彼女にはそんな虚しい顔なんて似合わなくて、ずっと変えられたらと思っていた。 そして、彼女はもう無表情ではなくなった。 (……だけど、僕は彼女にこんな顔をさせたかったわけじゃないっ……!) 精一杯力を込めているのに指は微動だにせず、涙を拭いてあげることすら出来ない。 言葉で何度も伝えようとするが、錆びた鉄の塊で蓋をされたように掠れた声しか出せず、ロウは自分の非力さを呪うしかなかった。
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