序章

5/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
その日の夜、住所を頼りに親戚の家に顔を出した。 叔父さんは二年前に奥さんを病気で亡くしてから一人暮らしをしていた。 娘と息子が居るが娘は結婚し今は広島に居る。 息子に関しては消息が断っていると母親に聞いた。 俺は叔父さんの家に着くとドキドキしながら呼び鈴を鳴らした。 笑顔で出てきた叔父さんは白髪混じりで眼鏡を掛けた姿で俺が一番なりたくない普通のオヤジだった。 「久しぶりだねタイガくん。入りなさい。」 そう言って10数年振りに会う金髪頭の俺を見て戸惑いながらも招いてくれた。 「ありがとうございます。お邪魔します。」 よそよそしくそう言うと俺は玄関の扉を閉めた。 一人暮らしには広すぎる一軒家はかなり年期が入ってたが台所は男一人暮らしとは思えないくらいに綺麗で恐ろしいくらいの数の調味料が現在も使ってる感じで並んでいた。 「お腹すいたでしょ?ビーフシチュー作ったから食べようか。」 皮肉にも俺の好きな料理を作って待っててくれた。 「叔父さん毎日自炊なんすか?」 そう尋ねると叔父さんは笑いながら 「毎日はさすがにやらないけど基本的には作るよ。妻が居た頃にいろいろ見てたからね、まぁ妻の味にはならないけど」 凄いっすね。 そんなありきたりな言葉しか出なかった。 正直、想像と違い過ぎて少し引いた。 「聖子ちゃんは元気かい?」 そう母親の安否を尋ねられるとふとこんな事を思った、10年もの間ほとんど年賀状くらいのやり取りしかなかったのに今更心配してるみたいな言い方で、なんて無責任な言葉なんだろう。 「元気ですよ。相変わらず・・・つっても全然会ってないからわからないと思うんですけど。」 そう皮肉な言い方をすると叔父さんは笑顔でこう言った 「なかなか遊びに行けなくてすまないね。」 別に遊びに来たとこで仲がよかった叔父さんじゃなかったし嬉しいとかもないんだろうなぁ、心の中でそう思った。 その後、泊まっていくよう進められたが思ったより居心地が悪く断った。 どこかで叔父さんの家に居座れば楽かなって思ってたのかもしれないが現実はやっぱり息苦しさを感じた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!