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しばし沈黙が埋めた。
次の曲予約もしていないせいで、カラオケの画面にはプロモーションが流れ続ける。
ツマらないそれが耳障りに感じだした頃、マサキは軽く咳をした。
「あの、あのっすね…」
「ん、どした?」
ユミがコチラをジッと見る。
ビクリ、と。
心臓が大きく跳ね、言葉を発する事を躊躇させた。
言いたい言葉、だが言いたくない言葉。
それが頭の中で処理しきれず、普段なら軽くポコポコと吐き出す言葉、それを音として発せられなくなっている。
無言でそうしてる内、ユミがまたニヤリとした。
「ちょっと、なんか口がパクパクしてるから」
恥ずかしさに顔が染まるのが解る。
ボンヤリと熱くなった身体の中で、無理矢理冷静になろうとしながら、マサキはタバコの火を消した。
「んな事言っても仕方ないっしょ?言葉の処理追いつかないんっすよ。もうさっき流れでも言ったっすけど、もうあの、アレっす…あの、俺、アレ、津島さんの事好きになってんすもん、もう」
言い終わった。
グダグダとした言葉の羅列に、とてもスッキリした感覚など生まれ得なかったが、それでも自身の気持ちを伝え得た、その達成感だけはある。
新しいタバコに火を着ける、その手はプルプルと緊張感に震えていた。
「へえぇ、本当ぅ?」
「本当も本当っすよ、こんなん冗談で言えませんよ…ホラ、見て下さいよこの手の震え、ヒドいっしょ?」
「あはは、本当にプルプルしてるじゃん」
自虐気味に自分の状態を伝える、それしかしようがなかった。
嘘は吐けない。
嘘は吐きたくない。
隠して意味の無い事は隠さない。
それが自身の信条という事もある。
「ありがと…でも、アタシ彼氏いるって言ったよね?」
「…んなん確率考えたら普通そうっしょ?別に、奪おうとかそういうんじゃないんすよ、なんか少しでもこっち向いてくれるんならって、俺の気持ちは解って貰いたいなってのが、まずっすよ」
長々と言葉を吐き出してノドが渇く。
タバコを灰皿に置く事もせず、マサキは溶けた氷で薄くなったオレンジジュースを流し込んだ。
その後しばらくはヒドいものだった。
好きだという事を、様々な言葉で無様に、惨めに見えるかもしれないが伝える、それしか出来なかったからだ。
入店から数時間経ち、ドッと疲れが出た頃、ユミが、新しく頼んだホットコーヒーを飲む前に呟いた。
「小日向くんさ、最近人がいなくなってる話って聞いた事ある?」
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