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回顧
「美奈子ちょっといいか」
「なーに?」
祐司の妻である美奈子は1学年下で大学時代のゴルフ部のマネージャーだった。
10年前、祐司が大学卒業を控えた暮れに忽然(こつぜん)と姿を消した後も唯一、連絡を取り合った間柄だ。
一時期は廃人のように落ち込み、引きこもり、やせ細っていた祐司にとって唯一の希望が美奈子だった。
次第に父母は祐司に対し腫(は)れ物に触るように接したが美奈子だけは何事もなかったよう気丈(きじょう)に振る舞った。
頻繁に祐司を訪ねてきては身の回りの世話を黙々とした。
「祐司さんは未だ卒業してませんから私もマネージャーを続けさせて頂きます」
父母が申し訳なさそうにしていても、平然としていた。
しかし、祐司はそんな美奈子を少しづつ重荷に感じるようになっていた。
祐司を想ってくれているのは判っていた。
しかしそれに応えられる自分がいない。
歯痒(はがゆ)かった。
苦しかった。
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