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途中、振り返り、二人に手を振ったので、米井刑事も手を振り返した。
ポッと赤くなった米井刑事は
「いい子ですね」
と言った。
星美の姿が見えなくなると森野刑事は
「小腹すいたな。
昼飯はパン1個だったし。鯛焼き食うか」
「そうですね」
二人はまた縁側に座った。
袋から、冷めつつある鯛焼きを取り出すと、森野は食べ始めた。
米井は鯛焼きを手に取り、その頭を眺めながら
「帰宅すると、また、辛い現実が待っているんですよね。
彼女」
「母親の逮捕・・・か」
「なんだか後味の悪い事件でしたよ」
「そうだな。
救いは、母親は殺人犯ではなかったということか」
「それでも、あの子に母親の罪のことは言えませんでしたね」
「うん。
でも、あの子は強いぞ。
この辛い現実を受け止め、対処し、しっかり生きていけるよ。
俺らも出来ることがあったら、サポートしてやろうよ」
「そうですね」
米井の表情は徐々に穏やかになり、鯛焼きの頭に、ガブッとかじりついた。
公民館隅の花壇の菊香る、秋の事件であった。
完
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