【1989年秋ハイデルベルク】

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キヨシは19歳の「少年」だった。 1989年4月、キヨシは学校を無理矢理休学し、親の反対を押し切り、9月までバイトをし、たまったわずかなお金を持って単身ドイツにやってきていた。 出発前にドイツ(Heidelberg)の語学学校の入学手続きは済ませていた。 Heidelberg(ハイデルベルク)は、ドイツ古城街道の出発点といわれている美しい街。 ただ、学費が安かったという理由だけでそこを選んだ。 19歳のキヨシには、Heidelbergという地名がなんとなく心地よかったのも、理由の一つかもしれない。 文字通り、右も左も判らず、事前に勉強していたはずのドイツ語も、うまく通じず、海外すら初めての彼には、何もかもがとっても大きなショックだった。 『もう、帰ろうか・・・』 そう思ったのも事実。 少し落ち着けるところをさがして、なんとなく川を求めて地図も持たずに歩き始めた。 しばらく歩くと、ゆったりとした流れのネッカー川へついた。 そのネッカー川の畔に腰を落ちつけると、今までの「不安な」気持ちが、一瞬にして「懐かしい」気持ちにかわった。涙が、勝手にあふれてきた。 『懐かしい・・・』 そうつぶやいていた。 『さて、気を取り直して、登録してある語学学校へ行くとするか!』 語学学校の事務局で入学手続きを済ませ、案内された地図をたよりに寮へ向かう。 指定された部屋には、先客がいた。 そこは、2人部屋で、「ルームメイト」になるのは、イタリア人(23歳:エンリコ)だ。エンリコは、アジア人と話をするのは初めてのようだ。 19歳のキヨシも、イタリア人は初めてだ。 エンリコはドイツ語がすでにペラペラで、「上級」クラスに入学そうだ。 一方、キヨシは「初級」だ。 『先が思いやられるな・・・。』 少しは意志疎通できるようになるのか???
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