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大昔の日本で言うところの花と言えば、それは「梅」だった。
それなのに、桜が日本人になじみ始めるとたちまちに、花と言えば「桜」になってしまった。
桜は一年に一度いっせいに咲いて、はかなく散っていく。そこにいわゆる、「わびさび」があるのだそうだ。
それから今にいたるまで、桜はすっかり日本の象徴や春の象徴なんかになってしまっている。
だからいまだに、私は納得がいかないのだ。
どうして両親は私に、「さくら」と名付けてくれなかったのか。
今の時代は梅より桜。
そうよ。
今はみんな桜が好きなの。
桜より梅が好きなんて人は、悪いけど、ただの時代遅れよ、絶対。
高木さくら。
ほら、いかにも可愛らしい名前じゃない。
「あれ? 高木じゃん」
ふいに声がして、教室の窓からひとりで校庭の桜を眺めていた私は、振り返った。
そこには、翔一がいた。
「お前はみんなと行かないのか?」
「そういうあんたはどうなのよ」
そう、みんなは花(桜)見に行ってしまったのだ。
「いや、ちょっと出遅れてさ。一緒に行かないか?」
「……あんたも桜が好きなのね」
「え?」
勝手に皮肉をこめた私の言葉に、当然翔一は戸惑ったはずなのに、彼はとたんに真剣な顔をして、言った。
「いや……俺は、梅のことが好きなんだ」
――ひとつだけ、わかった。
「……私もよ」
時代遅れは、もうひとりいたのだ。
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