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匠が答えると、あたしは涙ぐみながら頭を横に振り、
「嘘だよ。ホントは仇なんてどうでもいい。美衣は助かったし、完治する。だから、だけど、匠。お願い。何処にも行かないで。あたしのそばにいて。日本を追放なんてこと、ないよね?闘わないよね?死んだりしないよね?もう誰も失いたくないの。そばにいて。ずっと、あたしのそばにいて!」
あたしは泣きながらそう言うと、突然匠はあたしの肩を引き寄せて唇を塞いだ。
あたしは驚きながらも、ゆっくりと目を閉じた。
温かい唇。
生きている。
そう感じるたびに安心する。
唇が離れると、匠は優しくあたしを抱きしめた。
「お前の、そばにいる」
*
あたしは翌日の夜、サンセットに行った。
気持ちを整理するために。ヒロとの関係をハッキリさせるために。でもまた、ヒロに優しいことを言われたらグラついてしまう。
しっかりしろ、あたし!
そう思いながらドアを開けようとすると、ちょうど美貴さんが出て来た。
「瑠生、さん?」
「美貴さん…」
美貴さんはあたしの腕を掴み、
「歩きながら、少し話せるかしら?」
と言うと、あたしは頷いて、二人で山下公園の方に向かって歩き始めた。
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