1141人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
小さく音をたてた窓。
不審に思いカーテンを明けた東別は、器用に片方の眉毛をつりあげた。
「お前ここ何階だと思ってんだ」
「あはは。ねぇ開けて」
「玄関から来い」
極わずかな幅に足をかけていた緋色は、窓の外側から不満の声を上げた。
「こったら下に行くのは無理」
「しょっちゅう自殺行為に及んでる奴が何言ってんだ」
呆れながらも東別は窓を開ける。
緋色はまた自分の胸が悲鳴をあげるのに気がついた。
「真冬ちゃんの馬鹿」
「……突き落とされたいか」
緋色はスルリと隙間から部屋に上がった。
もちろん靴は脱いでいる。
最後に遊びに来てからまだ1ヶ月もたっていないはずなのに、東別の部屋はひどく懐かしかった。
「ごめんね」
「それは何に対してだ。窓から夜遅くに訪問したことか?生徒会に目をつけられたこと?戦争中にエアガンを振り回したこと?その騒動にまぎれて生徒会長を襲撃しようとしたこと?それとも」
「うん。とりあえず全部」
まだまだ出てきそうな自分の非行に、緋色は遮るように頭を下げた。
そして下げた頭を緩く振った。
「ごめん」
東別は何も言わない。
頭のいい彼はきっと気づいてくる。
少し視界が揺れて、緋色は客観的に“あぁ自分はずいぶん弱くなったなぁ”とぼんやりと考えた。
しばらくして小さなため息と共に、緋色の頭に温かく大きな手が乗った。
「怒ってない」
「うん」
「でも心配した」
「うん」
「俺だけじゃない。あいつらもだ」
「うん」
「だからと言ってお前が謝る必要はない」
「……」
「心配されたことに謝罪はいらない。お前は何か勘違いしている」
「……勘違い?」
「お前の謝罪には謝罪しかない」
緋色が問えば東別は小さく頷いた。
そして答えを言ってくれたのだが、どうにも理解しがたかった。
「心配されることになれてないんだな」
首をひねる緋色に東別はどこか寂しげに呟いた。
今までに見たことのない東別の表情に、緋色はなぜか温かさを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!