【二章】

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「セタンタが良ければ……、私と付き合って欲しいな。私ね、セタンタを忘れた事ないよ? あのとき、セタンタは私を……。男達に襲われ」 「やめろっ!」  木に止まっていた鳩達が一斉に飛び立っていく。 あのときのことを思い出したくなかった。 フリンが女体化したとき、夜盗に襲われて初めてエレナの感じた恐怖を実感し、モリガンに出会って痛みがどれほどのものが痛感した。 エレナの頭に手を回し、強く抱きしめる。 忘れて欲しくて、忘れてられなくて、エレナと再会したとき、嬉しさと苦しさが入り乱れて複雑な気持ちにさせられた。 あれからどうやって生きてきたのかを想像するだけで嫌悪感が沸いてきてしまった。 「この温もりだよ……。私が世界一好きなのは。セタンタ、今度はセタンタからキスして欲しい。私からばっかりだと、何か切ない……っ」  眉を下げて、「お願い」とだけ呟く。 顔を近づければ、目を閉じ、唇を少しだけ尖らせる。 引き寄せられるように唇を重ねると、エレナがフリンの頬を撫でる。 フリンも思考が鈍くなっていき、夢中で唇を重ねてしまっていた。 「苦し……っ! 待ってっ! セタンタっ!」  いつの間にか、後頭部に手を回し、エレナが離れられないようにしてしまった。 息苦しそうに呼吸をすると、髪を掻き上げると耳にかける。 真っ赤な顔をして、唇を折り込むと小さく息を吐いて見えた。 「強引なんだね、セタンタは。私はこういうの好きだよ? セタンタが私を求めてくれてるのがわかったから。気持ちが重なってる気がして気持ち良かった。ありがとっ」  交わす言葉がなくて、二人で佇んでしまう。 聞きたいことが沢山あって、それなのに聞けないでいた。 「どこか行かない?! あの、カフェとかあったでしょ?!」  沈黙を嫌ったエレナに切り出され、頷きかける。 すると、笑みを浮かべたままフリンの頬にキスをする。 そして、わざとらしくスキップをすると振り返って立ち止まった。 「ここにいると、多分ずっとチュッチュッしてるかもしれないからっ! 早く行こっ!」  誰かと隣り合って話しながら歩くのが楽しいとは思わなかった。 自然の流れで腕に手を絡ませ、楽しそうに話してくれる。 元々、お喋りだった女の子。 姿は大人でも、性格は変わらなかった。
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