『プロローグ』

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   ――クルザンド城下町。  いつ、どんな時代にも等しく訪れ、貴族、平民、貧民の差別なく平等に闇で包みこむ夜。  しかし、この日のエッフェンベルグ王国の首都においては、祝福の光彩が歓喜の快音を伴い、明るく町を照らし続けていた。  景気よく打ち上げられるのは隣国の魔術国家フルド・フラガの魔術師が創作した、最高品質の魔術花火。  夜空に火や光や水と、様々な種類の大輪の花を咲かせ、闇を彩らせている。  この一晩で数万発という数の幻想的な花々が、その身を一瞬の煌めきを生み出す為だけに儚げに散らせてゆく。  だが、毎日がこんなお祭り騒ぎなのではない。  剣の国として近隣諸国はもちろん、遠く海を越えた国々にも名を轟かせるエッフェンベルグ王国の一〇〇年祭。  見上げた夜空に、また一つ大輪の花が咲き誇り、緋色の髪に赤茶色の瞳の、綺麗な身なりをした男が、止めていた足を動かし始める。  エッフェンベルグ王国の首都、クルザンド城下町を東西に分断している『陽光の大通り』を歩く男の足取りは、目的地に近付くにつれ焦りからもつれて転びそうになりながらも、必死に前へと踏み出す。
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