大切なモノ=最終話=

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「あゆ。準備できた~?」 お母さんが下から叫んでる。 「今行く~」 私も負けじと声を張り上げて、そう答えた。 写真立てに目を向けたあと、きっちりネクタイを締める。   今日は竜の49日の法事の日だ。 外に出ると、遺影を抱えた竜のお母さんと目があった。 「ありがとね、あゆちゃん」 「いえ…」 笑ってお礼を言ってくれたおばさんに、一瞬でも気まずさを感じた自分が少し嫌になる。 「あゆ、私達もタクシーで向かいましょ」 「うん」 タクシーの窓越しに、竜のお父さんが骨壷を抱えて車に乗り込む姿が見えた。 …竜は、今日でこの家とさよならなんだ。 変わっていく外の景色を見ながら、ぼんやりとそんな事を思う。   空は見事な快晴で、その晴れやかさに少し憎たらしくなった。
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