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「先生は、卑怯だ。
悟った目をして、俺に笑いかければ、全てを許されると、
思ってるんだ!
なんで、俺に向かって笑うんですか!!
俺は、あんたを裏切ったんだ!」
岡田の叫びに、武市は先程の笑みを消し、笑っていない、
しかし、穏やかな瞳で言った
「そうだ、私はズルい。
おまえはいつまで、そんな人間にこだわり、縛られている」
何者にも俺は縛られないと、心にきめていた。
裏切りしか待たない世界の中で、
人への執着は、息苦しかったから。
なのに、縛られるなと、先生は言う。
武市は、岡田の返事を待たず、続けた。
「岡田以蔵は、もう居ない。
その痛みも、苦しみも、
岡田京介が持ち続ける事はないんだ」
武市先生の言う事は、
今の俺には分かった。
俺は、自ら幸せを避けていた
痛みを避け、関わりを避け、
俺が関わりたい人間を遠ざけた。
伊織を遠ざけ、安堵しようとした
それは、痛みの記憶が俺を蝕み、武市先生の存在に、恐怖を抱いていたからだ。
「以蔵、すまなかった
長い間、おまえを苦しめた。
私は消える。これが最後だ。」
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