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柳田加奈子は一人路傍に立ち尽くしていた。
それは突然沸いて出てきたかのような状況。
今までずっとこうしていたのかもしれないし、そうでなかったかもしれない。
目覚めた瞬間、今ようやく自分がどうしているのか気づいたような感覚だった。
キョロキョロと辺りを見渡したがやはり何も思い出せない。
どうやら記憶がないようだ。
昨日の夜からの記憶が盗まれたかのようにぽっかりとなくなっている。
当然今居る薄汚れた路地がどこであるかとか、何故肌寒い秋であるのにワンピースを着ているのかさえ思い出せないのだ。
酒をのみ記憶が飛んでしまったのかと思うほどの喪失が感じられた。
だがそうではないらしい。
手に息をはきかけ匂いを嗅いだが酒の気配はなかった。
さらにいつも酒を飲んだ次の日にやって来る鈍い頭の痛みもない。
こうして意識が戻ってきたのさえいつなのかわからない。
気づいたらここに立ち尽くしていたのだ。
加奈子は趣味の悪いワニ革のバッグの中に手を突っ込んだ。
もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれない。
手に当たったものを何度も出しては戻しを繰り返し、昨日の記憶を探した。
底の方でうすい紙切れが手に触れたのを感じた。
何かの切れ端に書いたのだろう。
端は破かれ、真ん中に単語がひとつぽつりと殴りがかれているだけである。
アカサカチョウ二丁目。
なぜ片仮名で書かれているかはわからないが、恐らく赤坂町のことだろう。
ほかには携帯も身分証になるものも見つからない。
赤坂町に行く他ないようだ。
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