ホットドッグ

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いつものようにホットドッグを売っていた時の事だった。私の目の前に、髭は整っておらず服はボロボロ、見るからにホームレス風の男がやってきた。  そんな私の視線に気づかずに、男はその血管が浮き出た細い手を無造作にポケットの中に入れ、しわくちゃになった紙幣を私に差し出して、 「一つくれ」  と小さな声で呟いた。私は少し嫌悪感を感じつつも、いつものように、熱々のホットドッグを紙に包んで彼に渡した。  男は何も言わずに、その場を去っていった。猫背の背中が何故か印象的だった。  次の日、昨日の男がまたやってきた。よく見ると髭は切られているようだった。男は昨日と同じように、しわくちゃになった紙幣をポケットから取り出して、 「一つくれ」  と耳をすまさなければ聞こえないような声量で呟いた。私は不気味に思いながらも、彼にホットドッグを渡した。  男はやはり何も言わずにその場を去っていった。  また次の日もその男はやってきた。今日はちゃんとした服を着ていた。すると、不思議な事に昨日まで抱いていた感情は消え、むしろ私の中に好意のようなものが生まれ始めていた。男はいつものように、  「一つくれ」  と風が吹けば消えるような声で呟いた。私はウキウキしながら、熱々のホットドッグを丁寧に紙に包んで手渡した。  男は虫のような小さな声で「ありがとう」と呟いて、丸めた背中を向けて去っていった。  気がつけば私はその男を心待ちするようになった。早くこい、と心の中で念じ続けながら仕事をしていた。  しかし、その日男は来なかった。風邪だろうかと心配しながらも、明日は会えるだろうなどと考えていた。  だが男はくる日もくる日もホットドッグ屋に訪れる事は無かった。  私は次第に男の事を忘れ始めていた。  ある晴れた日の事だった。見るからにお金持ちな親子がやってきた。子供は好奇心に溢れた目で私を見つめていた。それを男はたしなめつつ、ポケットからくしゃくしゃになった紙幣を私に渡しながら言った。 「二つくれ」  私は何故か胸を締め付けられるような気持ちになりながらも、熱々のホットドッグを親子に手渡した。 「ありがとう」    子供の元気な声が私の耳に響いた。親子は私に背を向けながら去っていった。やはり男の猫背の背中が印象的だった。
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